りっこ

 

     

我が国に香木が渡来したのは推古天皇3年(595年)夏、沈香が淡路島に漂着したとも言われております。

島の人が薪と共に焚いたその煙が遠くまで良い香りを漂わせたのでこれは不思議と献上したようです。

天平勝宝4年(752)の正倉院買物申請帳に沈香等貴重な香料が記されていますからこの時香木が渡来した

のでしょう。その翌年に鑑真和上が種々の薬種と共に持参しました。香木は元々日本では産出しません

ので、貴重なものであり、限られた宮廷人のみが接触出来たものと思われます。

この香木の代表でもある沈香は東南アジアで生育するある種の樹木に樹脂が沈着し、地中に長年埋もれ

凝固したものです。高品質の沈香は伽羅と呼ばれます。

大自然が育んだ貴重な埋蔵物で、現在ではベトナムなどの産地でも発掘されていません。

完全な枯渇状態ですのでこれを入手することは非常に困難です。

奈良の正倉院には「蘭奢待」という沈香が収められており十数年ごとに公開されています。

もう一つ香木には白檀があります。白檀はインド等で産出する常緑高木の心材で、聖徳太子がインドより

取り寄せたという説があります。生育には長年を要するものの入手はそれほど困難ではありません。

当時あまり知られていなかった白檀ですが、ある時法隆寺の宝蔵から鼠が引出したのが契機でその芳香さ

から「法隆寺(太子)」と銘が付けられ六十一種名香に 加えられました。

六十一種名香とは足利義政の命により志野宗信が三条西実隆より伝授を受け選出 した名香六十一種です。

このほかにも勅命香、十種、十一種、六十六種、百八十種名香があります。

香道をお楽しみになるのには、どうしても香木が必要です。香木の種類を表す言葉を六国五味と言います。 

六国とは 項目を選択してください。伽羅・羅国・真南蛮・真那伽・佐曾羅・寸聞多羅の六種です。

五味は辛(しん)、甘(かん)、酸(さん)、鹹(かん),苦(く)です。

最初は伽羅・羅国・真南蛮・真那伽の四種だけでしたが、その後佐曾羅・寸聞多羅が加わりました。

辛、甘、酸、鹹,苦の五味は匂いの性質を味覚で表しています。

現代の感覚とは異なりますが、辛は丁子の辛味、甘は蜜の甘味、酸は梅の酸味、鹹は汗の鹹味、苦は黄蘖

(きはだ)の苦味と伝えられています。

香木の判断基準は必ずしも五味からだけではなく、個々の人間の嗅覚からの識別です。

香木は天然の産物ですから、成分は均一ではありません。樹脂が沈着する黒い部分もあれば、茶系の濃淡

やオレンジ系のところもあります。小片の香木でも部分によって樹脂の沈着状態が異なりますと、香りも

微妙に異なります。

元々一つだった香木を四つに分割し、藤袴、初音、白菊、柴舟と銘を付け、小堀遠州・細川三斎・伊達政宗

に伝わりました。それぞれの五味が初音が甘、白菊が苦柴舟が鹹と伝えられています。

これを見ましても一つの香木であっても微妙な違いあることが証明されます。それと判定する人の 嗅覚の

差も失礼ながら認めざるを得ません。

以下六国を簡単に説明しますが、五味は流派により異なりますのでご了承ください。

伽羅

五味~苦。「宮人のごとし」と言われるぐらいですから、香木の中で極めて位が高く、優雅で最高級の香気を

持っています。木肌が黒に近い濃茶色、やや赤味を帯びた茶系で木目があるもの、グレー系で 油性も少ない

ものの三つのタイプがあります。

羅国

五味~辛。伽羅に近い奇南香に属し、優雅な香気を持っています。木肌はオレンジ系の色をしています。

初めの香気は伽羅に紛うものでも、時間が経つにつれ羅国特有の香気に変わって行きます。

真南蛮

五味~鹹。木肌は濃茶色ですが、縞模様の目は粗く光沢もやや劣ります。火加減が弱い場合は伽羅と区別する

のが難しいことがあります。

真那伽 

五味~無。五味のどれにも当てはまらない、匂いが軽く早く香が失するのが特徴です。判定が非常に難しい

香木です。

佐曾羅

五味~酸。白檀系の香木で、木の心材ですから、木目は非常に細かく密度も高く細かい年輪模様があります。

上品のものは、伽羅にまごうほど優雅な香りがします。

寸聞多羅

五味~酸。位薄く賤しいと伝えられるように独特の香味です。木肌が黒に近い濃茶とオレンジ系のものとが

あります。以前ある香道宗家から「その昔南方から輸入した沈香の中に香気が異なったもの」を設定したと

承ったことがあります。